障害者の法定雇用率はどこまで増える?2023年以降の見通し予想

障害者の法定雇用率はどこまで増える?2023年以降の見通し予想
障害者の法定雇用率はどこまで増える?2023年以降の見通し予想
内閣府がまとめた障害者白書によると、18歳以上65歳未満の身体・知的障害者数は159.3万人、精神障害者数は25歳以上65歳未満で192.6万人となっており、その合計は351.9万人です。

日本の労働力人口で考えると、1割ほどが障害者ということになります。

それに対し、国は障害者雇用法の中で「法定雇用率」を定め、企業側に一定の障害者雇用を求めています。

企業の障害者雇用は法律上の義務ということはもちろん、人員の確保、社員のマネジメントスキルの向上、法定雇用率の達成による助成金など様々なメリットがあるため、是非ともこの雇用率は達成していきたいところです。

では実際のところ、企業の障害者雇用状況はどうなっているのでしょうか。

この記事では障害者雇用の現状を解説しつつ、2023年以降の法定雇用率の見通しなどを考えていきます。

現在までの雇用率の変化

まず、2017年の「厚生労働省障害者雇用分科会」の資料を確認すると、民間企業の障害者雇用数は「47.5万人」となっています。

民間企業の雇用状況

全体の内訳は「身体障害者32.8万人」「知的障害者10.5万人」「精神障害者4.2万人」です。

着実に雇用者は増えているものの、働く世代である351.9万人の障害者数に対し、実際に雇用されている数は13%ほどしかいないという計算になります。

障害者雇用法では、労働者の総数に対する障害を持つ労働者数の割合を見ながら、少なくとも5年ごとに障害者雇用率を定めるという決まりがあります。

つまり、5年毎に見直される法定雇用率を基に、企業や行政は障害者を雇用する義務があるのです。

民間企業の法定雇用率は2018年4月に改定され、現在は「2.2%」です。

では続いて、この法定雇用率が具体的にどのような計算を基に決められているのかを解説いたします。

障害者雇用促進制度による雇用率の計算方法

そもそも障害者雇用法では、事業主に対し以下のような定めがあります。

第43条
事業主は、(中略)雇用する対象障害者である労働者の数が、雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数以上であるようにしなければならない。

【引用】e-Gov「障害者の雇用の促進等に関する法律」

このように、決められた雇用率以上の障害者を雇用しなければならないと法律で決められていますが、実際にはそれを達成できている企業はそう多くありません。

実際、厚生労働省が発表した「平成29年障害者雇用状況の集計結果」では、法定雇用率を達成した企業の割合は50%と報告されています。

そうすると、規定された法定雇用率が厳しいものなのではないかとも思えますが、上記の法令でも定めている通り、合理的な計算方法で算出されています。

A 常用雇用身体障害者数 + 常用雇用短時間身体障害者数 + 失業身体障害者数

B 常用雇用知的障害者数 + 常用雇用短時間知的障害者数 + 失業知的障害者数

C 常用雇用精神障害者数 + 常用雇用短時間精神障害者数 + 失業精神障害者数

D 常用雇用労働者数 + 常用雇用短時間労働者数 × 0.5 - 除外率相当労働者数 + 失業者数

( A + B + C ) ÷ D = 法定雇用率

一見細かな計算に見えますが、簡単な計算式に直すと以下のようになります。

A 「身体・知的・精神障害者」の常用雇用、短時間雇用、失業者

B 「全国」の常用雇用、短時間雇用、失業者

A ÷ B = 法定雇用率

※除外率等の説明はここでは割愛させていただきます。

要は雇用もしくは失業している障害者の数を日本の労働力人口で割った数字が「法定雇用率」となるのです。せめて、現在の平均的な雇用率は維持していこうという考えです。

2018年4月に2.2%と決められたのは、2016年の雇用もしくは失業している障害者の数が「89.7万人」なのに対して、労働力人口が「3705万人」という調査報告が元になっています。

2023年以降の法定雇用率の見通し

先ほどの調査報告の数字で法定雇用率を計算すると「2.421%」となりますが、2018年4月に定められたのは「2.3%」です。

しかし、実際には2018年4月から「2.2%」となっており、何故か矛盾のようなことが起きています。

実は、この数字のズレが生まれているのには理由があります。

その矛盾を説明しつつ、2023年以降の障害者雇用率を考えていきたいと思います。

まず、法定雇用率が2.3%となった経緯を順を追って見てみましょう。

  1. 上記計算にて法定雇用率は2.421%という結果になった
  2. しかし必ずその数字の法定雇用率にしなければならないという決まりは無い
  3. 算出された雇用率を基に、障害者雇用分科会で更に合理的な話し合いを行う
  4. 結果、過去数年の雇用率の伸びを鑑みて「2.3%」が望ましいだろうという結論になった

このような経緯で、最終的には2.3%に落ち着いたのですが、これまで2.0%だった法定雇用率をいきなり2.3%にしてしまうと、民間企業の負担は大きくなります。

そこで、法定雇用率は徐々に上げていくという措置が取られることになりました。

したがって、2018年4月から2021年3月31日までの3年間は2.2%としながら、2018年から5年後の2023年に2.3%にしようという事になったのです。これを一般に「激変緩和措置」と言います。

しかし、実際には2.4%以上という数字が算出されており、毎年確実に増えている民間企業の障害者雇用率を考えると、今後は更に法定雇用率は上がっていくことでしょう。

最後にその可能性が高いと言える、障害者雇用分科会の議事録などをご紹介したいと思います。

障害者雇用が進んでいない企業は今から準備を

障害者雇用分科会では現在のところ、「今すぐにでも障害者雇用率を上げよう」という議論はされていません。

ただ、今回の法定雇用率の改正もあくまで「3年経過する前に2.3%にする」としているだけであって、早期に2.3%になる可能性もゼロではありません。

更に第73回の障害者雇用分科会では2023年4月以降は法定雇用率が2.5%ないし2.6%にアップする可能性を示唆しており、2023年以降は今のところ激変緩和措置の予定もないとの話が出ています。

つまり、2023年以降からは前述の計算式で算出される法定雇用率がそのまま適用となる可能性があるということです。

障害者雇用が義務になった1976年から2018年までの法定雇用率の推移と今後の予測を見てみましょう。

【民間企業の障害者法定雇用率】
1976年 1.5%
1988年 1.6%
1998年 1.8%
2013年 2.0%
2018年 2.2%
2023年 2.3~2.6%(予測)

以前の障害者の法定雇用率は2.0%でしたので、労働者50人の企業で1人の障害者を雇用すれば足りていました。

しかし2018年から、45.5人に1人(2.2%)となり、2021年4月1日以降は43.5人で1人という計算になります。

もし、2023年以降に2.6%の法定雇用率になった場合、38人に1人の障害者雇用が義務になります。

法定雇用率がこのペースで増加していくと考えると、障害者雇用率が未達成の企業が更に増える懸念もありますし、そもそも企業による障害者を受け入れる環境の改善もこれまで以上に求められることになるでしょう。

障害者雇用が進んでいない企業については、今からでも早急に準備を始めるべきと言えるかもしれません。

【参考】第73回労働政策審議会障害者雇用分科会 議事録

まとめ

今回解説した法定雇用率の変化を考えると、どうしても「企業にばかり負担がかかっている」と思いたくなるところはあるかと思います。

障害者雇用率が未達成の企業には障害者雇用納付金の支払いも課せられますので、その思いを強く持っている企業は少なくないでしょう。

それらについては、障害者雇用分科会でも認識の上でしっかり話し合われており、そのため今回のような激変緩和措置を取ることになったのです。

また、障害者雇用納付金が行政側に課せられないのも「国民への負担の転嫁になる」という理由が背景にあります。

制度自体がこれからの社会情勢に応じて変化していく可能性はありますが、まずは今から障害者を雇用する環境の整備を始めた方が、後々の変化にも対処できるという企業としてのメリットにも繋がるのではないでしょうか。

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