「障害者、障碍者、障がい者」の違いは?漢字を分ける理由と経緯

「障害者、障碍者、障がい者」の違いは?漢字を分ける理由と経緯

「しょうがいしゃ」の書き方に「障害者」「障碍者」「障がい者」という3つの表記があるのをご存知でしょうか。

実はこれら3つの表記の違いは、「障害の考え方」「歴史的、国際的な事情」「個々人による見解の違い」から生み出されたものです。さらに漢字の違いを掘り下げていくと、なんと平安時代にまで遡ります。

この記事では「障害者、障碍者、障がい者」という漢字の意味を解説しつつ、3つの表記が生まれた理由と経緯、障害者本人がどう思っているかのアンケート結果をご紹介します。

「障害者、障碍者、障がい者」の表記と意味の違い

まず、「障害者、障碍者、障がい者」という3つの表記の違いを簡単にご説明すると、以下のようになります。

【障害者】
常用漢字として登録されており、「障」「害」という漢字の捉え方に様々な意見はあるものの、便宜的に広く使用されている漢字。
【障碍者】
「害」という字が「害悪」「害虫」「公害」などをイメージさせるため、「妨げ」という意味である「碍」という字を使うことで、社会的生活の妨げとなるハンデを持つ人という意味を持たせるために使用される漢字。
※「しょうとくしゃ」という読み方は誤り。
【障がい者】
上記2つの定義や意味、意見に左右されない表記として使用される。

3つの表記が使用されるようになったキッカケや歴史的背景は後述しますが、これらの違いは現在もなお議論が続けられています。

また、「障がい者」という文字については、特定の誰かが公の場で提案したものではありません。

いつ、どこで、何をキッカケとして使われるようになったという明確な証拠はなく、「埼玉県志木市が公文書に使ったのがキッカケである」とか、「東京都多摩市が最初に使った」、はたまた「新聞社の記事で初めて使ったのがキッカケである」など、様々な意見があります。

3つの漢字が生まれた理由と歴史的背景

そもそも「障害者、障碍者、障がい者」という3つの漢字に分けられていることに異議を唱える人もいますし、しっかり議論して適切な漢字を定めるべきと言う人もいます。

では、なぜ漢字のことが議論されるにまで至っているのでしょうか。その歴史的背景を簡単にご紹介します。

「障害者、障碍者、障がい者」に分けられた歴史的理由

3つの漢字が分けられた最初のキッカケは平安時代にまで遡ります。

元々、仏教の教えの中で悟りを開くための妨げとなるものを意味する仏教語に「障碍(しょうげ)」という言葉がありました。障碍とは「悪魔、怨霊などが邪魔すること」の意味です。

その後、江戸末期の頃に「障害」という文字が使われ始めたものの、読み方は「しょうげ」のままでした。その頃には「物事の発生や持続の妨げになること」を意味していました。

しかし、明治に入ると「しょうがい」と読まれるケースが出てきます。

そして、同じ読みの2つの漢字があるのは不便という理由から「障害」に統一することになり、更に戦後日本で定められた、現代の常用漢字の元となる「当用漢字」に「障害」の文字が採用されるに至りました。

「障害」という漢字に対する最近の議論

上記までの経緯により「障害者」という漢字が主に使われるようになったわけですが、現在日本では「障がい者制度改革推進本部」という組織が内閣府に設置され、有識者の意見による議論が行われています。

議論で出された「障害」という漢字に対する主な意見として、第29回障がい者制度改革推進会議の内容からいくつか抜粋してご紹介します。

■「障害」について

○肯定意見
国際条約では、障害者の障害に関して「Impairment(機能不全)」「Disability(能力不全)」という言葉が使用されていることを考えると、障害の「害」という字が障害者を「害悪」や「差し障り」を示しているのではないことは明白であるため「障害」という文字で良い
×否定意見
障害という字は「害悪」「害虫」「公害」の害を使っており、人を殺めるという意味もあり不適切である

■「障碍」について

○肯定意見
  • 「碍」という字は「カベ」も意味する。社会というカベに立ち向かう意識改革が必要ということで「碍」という字を使うように提唱している
  • 中国、韓国、台湾などの漢字を使う国では「障碍」と表記する。福祉国家として日本がリーダーシップを発揮するのには「障碍」が適当
×否定意見
  • 障碍を採用すると、逆に仏教語である「障碍(しょうげ)」の使用に対する新たな問題が生まれる
  • 「碍」という文字自体の使用頻度が低く、造語力も低いことから常用漢字にすべきではない
  • 「障碍」という言葉に置き換えたからといって、諸問題の根本的解決にはならない

■「障がい」について

○肯定意見
「障がい」という字を使うことで不快感をなくすことができるなら、字を改めるべき
×否定意見
そもそも、障害者の社会参加への制限という社会的な問題を表すのが「障碍」という漢字であるとした推進会議が、「障がい」という字を採用すべきではない

それぞれの漢字について様々な議論が行われていることが分かりますが、3つの漢字は現在も議論の継続中であり、どれにするかは明確に決められていません。

つまり、現状は漢字を使用する人の考えや用途により適宜違う漢字が使われており、本コラムのような記事においても、どの漢字を使用するかによって、その著者やサイトとしての考え方や姿勢が見えてくるとも言えるのです。

なお、当サイトにおいては、漢字の統一性を持たせるために便宜的に「障害」という漢字を使用しています。

【参考】第26回障がい者制度改革推進会議議事次第

実際に世間ではどのような声がある?

ここまで「障害者、障碍者、障がい者」という3つの漢字と意味の違いを解説しましたが、歴史的な経緯を踏まえて有識者や団体、そして政府という枠の中で議論が行われているのみで、実際の障害者や国民の声が無視されているのではないかと思えてきます。

しかし、先ほどご紹介した障がい者制度改革推進会議では、「内閣府が障害者も含めた国民へのアンケートを行っている」ことを公表し、その結果をまとめたものを以下のように公開しています。

Q1.「障害」の「害」はイメージが悪く差別に繋がるので表記を改めるべきとの意見についてどう思うか?
「そう思う」…障害あり22.4% / 障害なし21.9%
「そうは思わない」…障害あり44.6% / 障害なし42.9%
「どちらでもない」…障害あり33.0% / 障害なし35.2%
Q2. Q1で「そう思う」と回答した人は、どのような表記に改めるべきと思うか?
「障がい」…障害あり40.4% / 障害なし40.9%
「障碍」…障害あり8.7% / 障害なし7.8%
「その他」…障害あり31.7% / 障害なし34.0%
「分からない」…障害あり19.2% / 障害なし17.4%
Q3.「障害の表記が定着している」「不都合を感じていない」「障害者にとっての障害は社会や人々の意識の中にあるものである」という障害者の意見についてどう思うか?
「そう思う」…障害あり40.9% / 障害なし42.7%
「そうは思わない」…障害あり25.0% / 障害なし19.5%
「どちらでもない」…障害あり34.1% / 障害なし37.8%

上記のアンケートから「障碍」という漢字は適切とは言えず、「害」という漢字が不適切とも思わないと考える国民が多いという結果になりました。

障害の有無にかかわらず、「障害」という漢字は既に長らく使われている言葉であり、不都合なものでもない為、「障害」か「障がい」のどちらかで決めればよいと考える人が多いという事が見て取れます。

【参考】国立国会図書館インターネット資料収集保存事業WARP -「障害」の表記の在り方に関するアンケートについて

NHKが「障害」を使い続ける理由

今に至るまで議論され続けている「障害者」「障がい者」「障碍者」という3つの漢字と意味についてですが、公共放送であるNHKは、一貫して「障害」という漢字を使い続けています。

政府主導で漢字表記について議論している中、NHKの方針として「障害」という漢字を使うのは、れっきとした理由があります。それを分かりやすく説明しているのが以下の記事です。

ジャーナリストの堀潤さんは、元NHKアナウンサーです。記事内では、NHKが「障害」という漢字を使う理由と個人的見解を以下のように述べています。

  • 「障害」というのは障害者本人ではなく社会の側の障害のことであり、障害者は社会にある障害と向き合っている人たちだという考えが根本にある
  • 「障害者の気持ちを汲んで労る」という気遣いは、少々見当違いであり、現実的な社会の障害を取り除くことのほうが大事

【引用】NHKが「障がい者」ではなく「障害者」を使いつづける理由

障害には、医学モデル(障害の原因は個人にある)と社会モデル(障害の原因は社会にある)という考え方があります。

上記の堀潤さんの考え方は社会モデルであり、障害者が生活に不自由を感じるのは、社会側の配慮不足であるというのがNHKの考え方ということです。

確かに、漢字の違いも障害者の暮らしにくさも、障害者本人ではなく社会が生んだものです。

漢字の違いについて議論を続けるよりも、一刻も早く障害者が暮らしやすい社会にするための制度やインフラを整えていくことが、今、最優先にすべきことなのかもしれません。

まとめ

今回解説した「障害者、障碍者、障がい者」という3つの文字の違いですが、中には「過度な言葉狩りだ!」という意見もあります。言葉狩りというのは、一つの用語を引っ張り出して、その言葉自体を「悪」として社会的に使わせないよう仕向けることです。

この記事の最後にも漢字の違いについて議論を続けるより大事なことがあるのではないかと書きましたが、障害者を保護するための制度等を決めるにあたり、果たして「どの文字を使うべきか」という議論が本当に必要なのかと思う人も少なくないでしょう。

論争自体をやめるのか、引き続き適切な言葉探しを続けるのか。既に3つの表記で混乱を招いているとも言える現状で、最終的な結論を出すまでにはまだまだ時間がかかりそうです。

執筆者プロフィール

TOPへ