精神疾患と精神障害の違いはある?言葉の意味と医学的な定義

精神疾患と精神障害の違いはある?言葉の意味と医学的な定義

「精神疾患」「精神障害」「精神病」これらの言葉の違いをご存じでしょうか。

実はこれらの言葉の意味に明確な違いはなく、「TPOに合わせて使用する」のが適切と言えます。では、TPOとは具体的にどんな場面なのでしょうか。

今回、「医学面」「社会面」「法律面」において、精神疾患と精神障害という言葉がどのように使用されているかを調査しました。

【医学面】による精神疾患と精神障害の違い

まず精神疾患と精神障害の違いは、精神医学においても意味や定義、使われ方が統一されていません。日本と諸外国による認識の違いや医師の判断、症状別などによって様々な見解があることから、未だに精神疾患と精神障害という言葉の使い分けは議論され続けています。

精神医学においては国際的な疾病分類となる「DSM-5」「ICD10」というマニュアルがよく使われますが、同書の中で精神疾患や障害の多くが「disorder(障害)」と訳されています。海外における精神疾患と精神障害という言葉の使い方が一つの参考になるかもしれません。

躁うつ病:Bipolar affective disorder
抑うつ障害:Depressive disorder
不安障害:anxiety disorder
広汎性発達障害:Pervasive developmental disorders
強迫性障害:Obsessive-compulsive disorder

つまり、「~症」や「~疾患」とはせず、ほとんどが「○○による精神障害」としているのです。精神に関わる疾患や障害の原因は必ずしもメンタルだけでなく、薬物中毒や脳機能の異常、身体や依存症まで実に様々です。しかしDSM-5やICD10においては、それぞれの症状に対し「○○による△△障害」といった風に訳しているのです。具体例を見てみましょう。

飲酒による精神および行動の障害:Mental and behavioural disorders due to use of alcohol
大麻類使用による精神及び行動の障害:Mental and behavioural disorders due to use of cannabinoids

よって国際的な目線で言うなら「精神障害」とするのが一般的と言え、日本においては障害の症状や原因、状態の重さ軽さなどで感覚的に使い分けるのが妥当と言えるのではないでしょうか。

【社会面】の精神疾患と精神障害の違い

では私たち一般の人は、精神疾患と精神障害の違いをどのように使い分ければ良いのでしょうか。言うなれば「社会面での精神疾患と精神障害の違い」と言えますが、社会面と言っても「雇用」、「教育」、「福祉」、「文化」など、かなり広い範囲になります。ただもし、私たちが精神疾患と精神障害の言葉を使い分けるなら、以下のように使い分けたとしても間違いではないでしょう。

・法律や制度、医療に関わる場面なら精神障害
・相手により配慮が必要な場面なら精神疾患、その他代替の言葉

国や自治体における全ての制度を調査したわけではありませんが、福祉を管轄する厚生労働省、そして自治体の各種制度の下では以下のように使い分けられるケースが多く見受けられます。

国レベルでの制度や法律、医療制度などの情報:精神障害者
統計データや調査資料などの開示:精神疾患
自治体レベルでの福祉や各種制度など:精神疾患、または「心の病」「障がい者」という言葉を使用

つまり、法律や制度、データなどの情報開示の場面においては、便宜上「障害者」を使うケースが多く見られる状況。より当事者に配慮する内容になると、「精神疾患」やその他表現をやわらかくした言葉が使われているのです。

もちろん、上記のように使い分けなければならないというルールがあるわけではありません。あくまで国や都道府県が政策を進める上で分かりやすい言葉と、国民に広く啓発する場におけるふさわしい言葉が柔軟に使い分けられているだけです。もし言葉の選択に迷わった場合は上記のように使い分けると良いかもしれません。

【法律面】の精神疾患と精神障害の違い

では、法律面から精神疾患と精神障害の言葉違いを考えてみましょう。結論から言うと、法律の下において「精神疾患」という言葉はほぼ使われていません。「精神障害者」のみが使われている状況です。日本には「障害者に対する差別の禁止」を定めている法律が主に3つあります。

・障害者基本法(第4条)
・障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
・障害者の雇用の促進等に関する法律

これら法律の中で「疾患」という言葉は使われていません。「精神疾患のある人を差別してはいけない」といった表現などは一切ないのです。そこで障害者に関する別の法律を見てみると、唯一「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の中で以下のように書かれています。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 第五条(定義)
この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。

【引用】e-Gov 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律

多くの法律は条文の最初に言葉の定義を記していることが多く、「障害」という言葉を使用しても、「疾患」という言葉で何かを定めている法律はありません。つまり、法律の下においては、精神疾患は精神障害という名の下にひとまとめにされている状況なのです。よって前章でお伝えした通り、少なくとも日本では法律や制度に関わる内容の時には精神障害者という言葉を使うのが慣習だと言っても間違いではないでしょう。

精神障害と精神疾患の違いは不明確なまま

精神疾患と精神障害の違いについて、医学面と社会面、法律面から考えてきました。あなたはもしかすると「そもそも二つの言葉を使い分けることに何か意味はあるのか」と疑問に思われていないでしょうか。精神疾患と精神障害の違いは、精神を病んだ本人がどう受け取るかで使い分けるのが妥当と言えるでしょう。事実、日本の障害者福祉制度において障害者という言葉ですら3つの漢字で使い分けられています。

・障害者
・障がい者
・障碍者

3つの漢字がある理由は「『害』という言葉が良くない」「障害の原因は本人ではなく社会側にあり、壁を意味する『碍』が適当だ」といった意見があるため。有識者により、当事者に配慮した漢字を使うべきではないかと議論が続けられているのです。ただ、どの漢字を使うかという議論の場において「精神疾患」という言葉については一切議論されていません。なぜなら「精神疾患者」とは言わないためです。

※「障害者」「障がい者」「障碍者」の違いは以下の記事にて解説しています。

「障害者、障碍者、障がい者」の違いは?漢字を分ける理由と経緯

またこの記事の最初に、医学面においても明確な区別がないとお伝えしました。実際、精神の病に関わる診断名でさえも以下のように種類が分かれています。

・○○疾患
・○○障害
・○○病
・○○症
・○○異常

唯一「精神病」という言葉だけは「偏見を持たれかねないため、症状がハッキリしていて特に重い症状の場合のみに使われることが多い」と言われています。つまり、入院を要するほど重い症状なら精神病、それ以外を精神疾患や精神障害という風に分けるという考え方もあるのです。

精神疾患と精神障害の言葉を使い分けるのは難しいですが、日本も障害者に配慮した社会を実現させるべく、ここ数年で大きく制度も変わってきました。言葉の使い分けは、本人がどう受け取るかで決める、または本人にとって理解しやすい言葉を使うのが今のところ正解なのかもしれません。

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