ADHD、ASD、SLDの違いと特徴を分かりやすく解説

ADHD、ASD、SLDの違いと特徴を分かりやすく解説

精神障害の一種である発達障害には大きく分けて「ADHD」「ASD」「SLD」という3つの種類があります。

これら3つの障害は、「DSM-5」というアメリカの精神医学会における診断基準により種類が明確に分類されており、症状や特徴等は全く異なります。

この記事では、わかりづらい「ADHD」「ASD」「SLD」の違いや特徴について、簡単なチェック診断や治療方法も交えて解説します。

名前は似てるけど全く違う発達障害の種類

ADHD、ASD、SLDが何の障害を指すのか、まずは日本語の名称の違いから見てみましょう。

ADHD
(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)
注意欠陥・多動性障害
ASD
(Autistic Spectrum Disorder)
自閉症スペクトラム障害
SLD
(Specific Learning Disorder)
限局性学習症

自閉症という言葉は比較的聞いたことがある方も多いかと思いますが、この3つはいずれも発達障害の種類であり、英語の綴りの頭文字を取った名称です。なお、共通するDisorder(無秩序)には「障害」の意味が含まれています。

3つの障害における症状や特徴

日本語名から何となくどんな障害か想像がつく方もいるかと思いますが、具体的にはそれぞれ以下のような特徴や症状があります。

ADHD(注意欠陥・多動性障害)

注意力が散漫で集中力がなかったり(注意力欠陥)、常に身体を動かしていて落ち着きがない(多動性)、よく考えず行動してしまう(衝動性)などの特徴がある障害です。

いずれかの特徴に偏る「不注意優位型」「多動・衝動優位型」と、複数の症状が見られる「混合型」の3タイプに分かれ、混合型が最も多いと言われています。ADHDの主な症状は以下の通りです。

  • 貧乏ゆすりや常に体のどこかを動かしている
  • 過度な買い物をしてしまう
  • 感じたことや思ったことをすぐに口にする
  • 量の多い作業があると慌ててしまう
  • 忘れ物が多い

ASD(自閉症スペクトラム障害)

「自閉症」というのは、外部からの情報を遮断して自分だけの世界に没頭してしまうような状態を指し、「スペクトラム」とは連続体を意味します。いくつかの症状が重なったり、時と共に変化するため「自閉症連続体」などと言われることもあります。

以前は自閉症やアスペルガー症候群と共に広汎性発達障害の一種と分類されていましたが、現在ではASD(自閉症スペクトラム)の名称で統一されています。ASDの主な症状は以下の通りです。

  • コミュニケーションが苦手
  • マイルールへの強いこだわりがある
  • 自分の興味があること以外に関心を示さない
  • 相手の状況を考慮せず自分の都合を優先する
  • チームワークが必要な場面で単独行動をする

SLD(限局性学習症)

以前は「LD(学習障害)」という名称でしたが、精神医学の診断基準の変更により様々な学習障害を「SLD」と統一し、診断の際は「読字の障害を伴う限局性学習症」「書字表出の障害を伴う限局性学習症」「算数の障害を伴う限局性学習症」と分けています。

「限局性」とは、疾病や症状がある特定の部分にのみ現れる状態のことで、読み書きが苦手、計算ができないなど、特定の学習能力に対する障害です。

以下にご紹介する症状が重複している場合もありますが、基本的には特定の症状に偏っている事が多いとされています。SLDの主な症状は以下の通りです。

  • 文字が重なったり歪んで見えるため読むのに時間がかかる
  • その文章や言葉が何を意味して何に係るのか理解できない
  • 文字を書くと鏡文字になってしまう
  • 数の概念や数値の示す意味を理解できない
  • 1桁の暗算ができない

それぞれの障害で挙げた主な症状はあくまで一例に過ぎませんが、発達障害と診断された事がない方でも身に覚えのある方もいるのではないでしょうか。

発達障害は個性なのか障害なのか線引きや診断が難しく、大人になっても本人や周囲が障害に気づかず、「自分の話ばかりする人だ」「才能はあるけど私生活がだらしない」などと、単なる「個性的な人」「変わった人」と見られてしまいがちです。

「発達障害グレーゾーン」に当てはまる3つの特徴

気になったらチェック「ADHDの簡易診断」

線引きが曖昧と言われる発達障害ですが、実はADHDの簡易的なチェックができるサイトは数多くあります。

例えば、製薬会社の日本イーライリリーが運営する「大人のためのADHD.co.jp」というサイトでは、「成人期のADHDの自己記入式症状チェックリスト」を公開しています。

内容は自己チェック用のAパート、医師診断用のBパートで分かれています。具体的にどのようなチェック内容なのか、一例として自己チェック用の項目をご紹介します。

  • Q1.物事を行うにあたって、難所は乗り越えたのに、詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことが、どのくらいの頻度でありますか。
  • Q2.計画性を要する作業を行う際に、作業を順序だてるのが困難だったことが、どのくらいの頻度でありますか?
  • Q3.約束や、しなければならない用事を忘れたことが、どのくらいの頻度でありますか?
  • Q4.じっくり考える必要のある課題に取り掛かるのを避けたり、遅らせたりすることが、どのくらいの頻度でありますか?
  • Q5.長時間座っていなければならない時に、手足をそわそわと動かしたり、もぞもぞしたりすることが、どのくらいの頻度でありますか?
  • Q6.まるで何かに駆り立てられるかのように過度に活動的になったり、何かせずにいられなくなることが、どのくらいの頻度でありますか?

【出典】大人のためのADHD.co.jp「成人期のADHDの自己記入式症状チェックリスト(ASRS-v1.1)」

上記を「全くない」「めったにない」「時々」「頻繁」「非常に頻繁」の5段階でチェックし、「時々」~「非常に頻繁」に多く当てはまるほどADHDの可能性が高いということになります。

ただし、これはあくまで簡易的なチェックであり、正確な判断は医師用のチェックシートを基に医師に診断をしてもらう必要があります。

大人のADHD、ASD、SLD。子供の場合とどう違う?

医療機関などで行われている発達障害の治療法

発達障害の主な治療法は投薬やカウンセリングですが、投薬治療は障害の種類によってできる場合とできない場合があり、大まかに分類すると以下のようになります。

ADHD(注意欠陥・多動性障害) 脳内物質を調整するメチルフェニデート(コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)などの薬による治療
ASD(自閉症スペクトラム障害) 現時点で治療薬はない(臨床実験の段階だが、一定効果があるとされる「オキシトシン」というホルモン物質の点鼻薬はある)
SLD(限局性学習症) 現時点で治療薬はない

発達障害の症状は、後天的な精神障害との判別が難しく、最初は先天的な発達障害だけでも、障害に起因とする仕事や生活上のトラブルから大きなストレスを抱えた結果、うつ病などの精神障害を併発してしまう「二次障害」を患うケースも少なくありません。

そのため、一般的に投薬治療を行わないASDやSLDについては、二次障害が現れた時に投薬治療を行うことが多いとされています。

投薬以外の治療法も障害の種類によって異なりますが、トレーニングやカウンセリングによる治療は個人の症状や障害の程度などにも合わせる必要があります。

そのため、症状別に特定の治療方法がある訳ではなく、周りの人と差異のない生活を送ることを目標にした心理社会的療法が行われます。

発達障害全般の治療としては主に以下のようなトレーニングやカウンセリングによる治療法が一般的です。

環境調整 自分の暮らしやすい環境を自ら作る
ソーシャルスキルトレーニング(SST) 対人スキルを身に付ける訓練
認知行動療法 事象の捉え方や感じ方を見直す訓練

なお、SLDについては幼少期や小学校低学年の時期に分かるケースが多いため、大人の学習障害への具体的な治療法などは確立されていません。

行政や法的な支援を受けたり、職場へのカミングアウト、工夫すればできることを本人が自覚するなどして生活上の困難を克服しているケースが多いようです。

発達障害は風邪やケガのようにどうなったら障害とか、どの時点で治った悪化したと簡単に判別できるものではありません。

医師に相談して障害が発覚しても、それを一つの個性として周囲が理解し、「その人が生活する上で困難なものを減らす」ことが、最良の治療法と言えるのかもしれません。

発達障害者が取り組むソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?

まとめ

発達障害の話題では、才能に満ち溢れた著名人や天才のエピソードが登場することが多々あります。

それらは「障害がある人は才能がある」「欠点のある人は他に秀でた部分があるはず」といったニュアンスを含んでいるのかもしれませんが、一部ではそういった表現に対して「誤解を招く」と異を唱える人もいます。

本編でもご紹介したADHDの簡易診断でも分かるように、発達障害か個性なのかは紙一重と言える部分も少なからずあります。

実際、「発達障害」と言いたがる人たちという本の中では、健常者が精神科で発達障害と診断されないことにがっかりする事例が紹介されており、それは単に「物事が上手く運ばないのを自分ではなく、障害のせいにしたいだけである」としています。

発達障害が発覚したとしても、それとどう付き合うか決めるのは本人です。周囲が勝手に決めた発達障害に対する特別な見方や偏った考え方を障害者本人らに押し付けることがあってはならないのです。

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