障害者を雇用する事業主必見!「合理的配慮」の具体例を紹介

障害者を雇用する事業主必見!「合理的配慮」の具体例を紹介

障害のある人を雇用する事業主には「合理的配慮の提供」が義務づけられました。しかし、「合理的配慮」の合理的とはどのような意味なのか理解できている人は案外少ないようです。ここでは、障害者の雇用を検討している事業主のために、合理的配慮の考え方をはじめ、合理的配慮の進め方をわかりやすく説明し、最後に発達障害のある従業員に対する合理的配慮の具体例を紹介しています。

「合理的配慮」は事業主に課せられた義務

2013年の「改正障害者雇用促進法」で、障害者を雇用する事業主に対して「障害者に対する差別の禁止」と「合理的配慮の提供」が規定され、2016年4月から施行されました。差別の禁止は、募集・採用時から退職するまでの間、賃金や配属部署、教育訓練、昇進、定年年齢など雇用に関するあらゆる場面で、障害を理由にほかの従業員と不当な差別をすることを禁じたものです。

合理的配慮は、募集・採用時から採用後において、ほかの従業員と均等な機会を確保し、持てる能力を発揮するうえで支障となっている事情を改善するために講じる措置のことです。事業の規模や業種に関わらず、すべての事業主にこうした合理的配慮を提供することが義務づけられました。では、どのような人に対して、どのような措置を講じることなのか、もっと詳しく見ていきましょう。

合理的配慮の対象となる障害者は?

合理的配慮の対象となるのは「身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、その他の心身の機能の障害があるため長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な者」とされています(障害者の雇用の促進等に関する法律第2条第1号)。

障害者手帳を保持する人とは限定されていません。手帳を持っていなくても合理的配慮を受けることができます。障害者雇用率制度を利用して就職する場合は手帳が必須条件となりますが、合理的配慮に関しては手帳の有無は問われません。ただし、就職に際してハンディキャップになるほどではない軽度の障害は対象外となります。

合理的配慮はこのように進める

「配慮」という言葉には「相手に対して心を配ること、何かをしてあげること」といった意味がありますが、雇用の分野においては、「調整」という意味合いもあり、障害者と職場の人たちの双方にとって働きやすい環境整備につながります。そのためには、事業主と障害者がよく話し合い、本当に必要な措置を講じることが大切です。具体的には次のような手順で進めていきます。

応募・採用面接時に障害者から事業主に意思表示する

精神障害や内臓障害のある人は外見からは障害者とわからない場合があります。また、同じ障害でも支障となっている事情は一人ひとり異なりますから、事業主に求められる配慮も違ってきます。そのため、障害者本人が応募の段階または採用面接時に、働くうえで必要な配慮について申し出(意思表示)をすることが前提となっています。

本人の口から伝えるのが困難で、就労支援機関(就労移行支援事業所やハローワークなど)の職員または家族が面接に同席している場合は、その人たちから必要な配慮について説明してもらいます。

採用後は必要な措置について話し合う

障害者から意思表示があった場合は、職場内で支障となっている事情を確認し、具体的にどのような措置を講ずればよいか本人と話し合います。その際は、就業時間や休憩時間、通院が必要な場合はその時間帯などについても決めておきます。

なお、障害者の中には、障害があることで不利になることを心配して雇い入れ時まで障害を開示しない人もいます。そのため、事業主は全従業員に対し、一斉メールや社内報などを使って「合理的配慮の提供の申し出」を呼びかけることとされています。それでも申し出がなく、従業員に障害者がいることを知ることができない場合は、合理的配慮の提供義務違反に問われることはありません。

過剰な負担にならない範囲で配慮事項を確定する

障害者本人と話し合った結果、本人が希望する配慮事項が複数あるときは、本人の意向を尊重したうえで、より提供しやすい事項を選択します。また、本人の求める措置が、下記の6つの要素について過重な負担がかかると判断される場合は、合理的配慮から除外してよいとされています。ただし、配慮できない理由を本人に説明して、可能な範囲内で対応する必要があります。そのように話し合いながら相互理解を深め、提供する配慮事項を確定していきます。

過重な負担を判断する6つの要素
  1. 事業活動への影響の程度(合理的配慮を提供することで、事業の生産活動に影響を及ぼす程度)
  2. 実現困難度(事業所の場所や敷地形態などによって実現するのが困難な場合、その程度)
  3. 費用負担の程度(措置を講じるためにかかる費用の程度)
  4. 企業規模(企業の規模から見た負担の程度)
  5. 企業の財務状況(企業の財務状況から見た負担の程度)
  6. 公的支援の有無(措置を講じるために公的支援を受けられるか否か)

1~5の要素に大きな負担がかかり、6の支援も受けられない場合は合理的配慮の提供は免除されます。

職場の上司や同僚にどこまで伝えるかを決める

配慮事項が確定したら、配属する部署に合理的配慮についてどこまで伝えるかを本人と話し合います。配属先の上司や同僚にすべてを知ってもらって共有することは大切ですが、本人のプライバシー保護の観点から、事業主が一方的に伝えることは避けなければなりません、ここでもよく話し合って伝えるべきことを決めてから、配属先に伝えるようにします。

合理的配慮を実施したら定期的に見直すことが必要

合理的配慮は一度決めたことを継続すればよいというものではありません。時間の経過とともに本人は仕事にも慣れていく可能性がありますし、新たな問題が生じることも考えられます。ですから、定期的に本人と面談する時間を設けるなどして配慮事項を見直し、現状に即した配慮を提供していくことが重要です。

発達障害の人に対する合理的配慮の具体例

合理的配慮の仕方は、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害など障害の特性によって異なります。ここでは、発達障害(自閉症スペクトラム、ADHD、LD)の人を対象とした合理的配慮の具体例を紹介します。

指示を出すときは1つずつ、わかりやすく

自閉症スペクトラム(自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群)の人は、コミュニケーション力が弱く、抽象的な表現やあいまいな言い方をされると、要件を正確に把握することができない場合があります。たとえば、「これを早く片付けて、そっちを手伝って」などと言われると混乱して強い不安にかられることがあります。

「これ」「そっち」「あれ」といった指示語は何を指しているのか、「早く」はどの程度のことなのかがわかりにくいのです。その結果、自分勝手な作業をしてしまうことがあります。口頭で指示するときは、たとえば「データ入力を12時まですませてください」のように、何をいつまで仕上げてほしいかを明確に伝えるようにします。また、指示は一度に1つが原則です。データ入力が終わったら、「次は資料の整理を3時までにお願いします」のように、作業が終わる都度、次の作業の指示を出せば混乱することもありません。

自閉症スペクトラムの人は、聴覚情報より視覚情報が理解しやすい傾向がありますから、作業の手順や時間配分などがひと目でわかるようにイラストや写真を用いて視覚化するとスムーズに取り組むことができます。この視覚化する方法は、物忘れしやすいADHD(注意欠如多動性障害)や、短期記憶が弱いLD(学習障害)の人にも有効です。

仕事に集中できる環境づくりを

自閉症スペクトラムの人は、視覚過敏や聴覚過敏を伴っていることが多く、自分に必要のない情報まで目や耳から飛び込んでくるため、仕事に集中しにくくなります。また、ADHDの人は刺激の多い場所では集中力が続かず、ミスが目立つようになります。そのような人に必要なのが職場環境の整備です。職場内にはできるだけ物を置かず、シンプルな空間にする必要があります。本人の机の周りをパーテーションや背の高い棚で仕切って、半個室のようにすると視界が遮られ、雑音も聞こえにくくなるので、仕事に集中できるようになります。

感覚過敏な人にはこんな配慮を

発達障害には、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感が過敏だったり、逆に鈍感すぎたりする感覚異常を伴う場合があります。ふつうの人にはなんでもないドアの開閉音が爆音のように感じるという人や、蛍光灯が耐えがたいほどまぶしく感じるという人もいます。

聴覚過敏に対しては、ドアから離れた場所にして、仕事中は耳栓をしたり、ヘッドフォンを着用することを認めるようにします。視覚過敏に対してはサングラスの着用を認めたり、可能であれば蛍光灯を1本少なくするなどの工夫をするといいでしょう。

疲れやすい人には休憩室を用意する

精神障害や発達障害の人は、物事に過集中するため人より疲れやすいのも特性の1つです。仕事が一段落すると燃え尽きた状態になることがあるので、周囲が適度に休憩するように促すことも必要です。休憩室も一人になれるスペースを設け、横になって休めるようベッドも用意するといいでしょう。

このほか、「マナーや常識を知らない」「社会性に欠ける」といわれることが多い発達障害の人のために、ビジネスマナーに関する講習会を開いたり、コミュニケーション力の向上を目指して研修を実施している企業もあります。

まとめ

障害者雇用率制度では、従業員が45.5人以上いる企業は障害者を1人以上雇用することが義務づけられています(2020年現在)。雇用率が著しく低い企業に対する指導が強化されていることもあり、障害者雇用に積極的に取り組む事業主が増えています。

その一方、「雇用したいが何から始めればいいかわからない」と一歩踏み出せないでいる事業主も少なくありません。そのような事業主の相談窓口としてハローワークや障害者就業・生活支援センター、障害者職業センターなどがあります。

この中でも、障害者就業・生活支援センターは事業主に対して職場環境整備の仕方や雇用管理の仕方などについて専門的なアドバイスをしてくれますから、最寄りのセンターで相談してみるといいでしょう。

【参考】
合理的配慮提供のポイントと企業実践事例 – 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター
改正障害者雇用促進法に基づく「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」 – 厚生労働省
合理的配慮指針事例集【第三版】 – 厚生労働省

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