デンマークの障害者就労施策「フレックス・ジョブ」とは?

デンマークの障害者就労施策「フレックス・ジョブ」とは?

北欧のデンマークと言えば、高福祉国家をイメージする人が多いでしょう。国民は高い税金を納める代わりに、手厚い福祉を受けている印象です。

では、障害者に対してのサポートはどうなのでしょうか。

今回はデンマークの障害者就労施策「フレックス・ジョブ」に注目したいと思います。

フレックス・ジョブは障害者の自立を保証するサポートというより、「良き人生を送る」ための一手段、社会参加への仕組みづくりと言えそうです。

フレックス・ジョブは公的支援付きの就業形態

デンマークの「フレックス・ジョブ」は、障害者が公的支援を受けられる就業形態です。

デンマークでは週37時間労働がフルタイムの基本となっており、一般的に30時間以下の労働はパートタイムとみなされます。

しかし、フレックス・ジョブ制度を利用することで、障害を理由にパートタイムでしか働けない場合でも、フルタイムの賃金との差額が賃金補助として自治体から支払われる仕組みです。

つまり、フレックス・ジョブ制度を利用する障害者はパートタイム勤務で、フルタイム労働をする健常者と同等の報酬を得られます。

また、障害が妨げになり、労働の生産性が低い人もいます。

たとえ週に30時間労働しても、健常者の週10時間分の成果しか果たせない場合、雇用主が支払う分は10時間分の報酬です。

しかし、自治体から27時間分の補助金が出るため、障害を持つ労働者の報酬は変わらず37時間分となります。

フレックス・ジョブは、デンマークでいかに障害者への雇用機会が設けられているかがわかる制度と言えるでしょう。

デンマーク障害者就労促進政策の方針

フレックス・ジョブのような制度が生まれた背景には、デンマークにおける障害者の自立概念が影響しています。

デンマークでは障害者に対する公的な定義がありません。

個人の抱える障害が、良き人生を送る上で妨げとなった場合に生じるハンディキャップを、デンマークでは障害とみなしています。

ハンデキャップを補うサポートによって、機会均等を保障することがデンマークの障害者施策の方針です。

デンマークの障害者概念に基づく障害者政策には、以下の3つのポイントがあげられます。

機会均等
機会均等に基づき、障害者が一般市民として労働市場に参加できるような政策を促進する
補償
障害のために経済的負担がでないよう、公的部門が補償する
部門責任
政府機関の社会省や労働・建築省などに対して、障害者対策に関する各自の対策と財政的な責任を持たせる「部門責任」を課す

障害者の就労促進政策の主な制度

障害者の就労促進政策は、大きく分けて「職業リハビリ訓練」と「賃金の補助金支給制度」の2つがあります。

職業リハビリ訓練

地域の公立リハビリ訓練所や一般企業、公的機関などで実習や訓練を受けるなかで、就労能力が評価されます。職業リハビリ訓練は最高5年間まで受けることが可能。訓練中は月額約30万円(所得税込、2006年)のリハビリ手当が支給されます。

賃金の補助金支給制度その1

「賃金の補助金支給制度」については2種類あり、1つ目は障害者年金受給者への支援制度です。

デンマークでは障害者でも多少の労働能力があったり、将来的に労働が可能であると判断されたりした場合は就業促進支援の対象となります。

しかし、障害の程度によっては、恒久的に労働能力が欠如していると判断される人もおり、障害者年金を受給します。

障害者年金受給者でも就労を希望者には、最低賃金の5分の1程度を補助金として自治体が雇用主に支給する制度があります。

障害者の賃金は、障害者と雇用主の間で交渉して決められ、障害者は障害者年金と賃金の両方を受け取れます。

ただし、年間収入が一定額を超えた場合は障害者年金支給額が調整されたり、年金支給がすべて差し止めになります。

賃金の補助金支給制度その2

もう1つは「フレックス・ジョブ」です。

フレックス・ジョブは、賃金の一部を自治体が負担することによって、障害者が一般企業や公共機関で就労できる制度です。

障害者年金受給を受けている人は適用されませんが、障害者年金の受給を一時据え置きすれば、利用可能となっています。

柔軟な労働市場の形成に役立つフレックスジョブの事例

最後に、デンマーク第三の都市であるオーデンセ市のフレックス・ジョブの事例をご紹介します。

同市による教育訓練期間を通じて、障害者の就労可能に関する慎重な判定が行われ、就労能力に応じた雇用機会をフレックス・ジョブで創出しています。

さらに、市が直接の雇用主となり「ミニフレックス・ジョブ」を実施し、最も就労に課題がある人に対しては、直接雇用による就労機会の提供もしてます。

ミニフレックス・ジョブとは、週10時間以内の労働でもフレックス・ジョブ制度が利用できる後にできた制度です。ただし、ミニフレックスの場合は短期利用が前提で、数年後には10時間以上の労働が可能な人が対象になっています。

フレックス・ジョブとミニフレックス・ジョブを組み合わせることで、個人の能力に応じた労働の時間・賃金の組み合わせが可能になり、短時間勤務を望む雇用主とのマッチングにもつながっているとのこと。

障害者の就労可能性を広げることに成功しており、フレックス・ジョブは柔軟な労働市場の形成に有効性を持つことが実証されていると言えるでしょう。

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