地方自治体が指定する就労支援機関「ナカポツ」とは?利用の流れや相談内容等

地方自治体が指定する就労支援機関「ナカポツ」とは?利用の流れや相談内容等

「ナカポツ」という言葉は聞いたことがないという方も少なくないでしょう。ナカポツとは「障害者就業・生活支援センター」という障害者や障害者を雇用する企業を支援する機関の略称です。

障害者の就労に関する社会資源には、国や自治体、民間企業などが運営するさまざまなセンターや事業所があります。

ここでは、就労支援の中心的機関である「ナカポツ」について、サービス内容や利用の手順、実際にナカポツを活用して安定雇用を実現した事例を紹介します。

「ナカポツ」とは?意味と語源を解説

【出典】厚生労働省「障害者就業・生活支援センター」

ナカポツというのは「障害者就業・生活支援センター」の名称の中に記されている「・(ナカポツ)」からきています。

正式名称は長くて言いにくいことから、略して「ナカポツ」「ナカポツセンター」「しゅうぽつセンター」と呼ぶようになったと言われています。

「ナカポツ」と聞いてすぐに「障害者就業・生活支援センター」と認識できる人は福祉の業界に精通した人と言えるでしょう。

ここでは、簡潔で読みやすくするために「ナカポツセンター」の略称を用いて説明していきます。

さて、障害者就労に関わる地域の支援機関は数多くあります。その代表的なものとして下記の4機関が挙げられます。

名称 支援内容 運営
ハローワーク 就職を希望する障害者に対し、専門職員がケースワーク方式で職業相談に応じ、仕事の紹介および職場定着指導も行う 厚生労働省
地域障害者職業センター ・障害者に対して、専門的な職業リハビリテーションを提供する
・企業に対して、雇用管理に関する助言などを行う
独立法人高齢者・障害者・求職者雇用支援機構
就労移行支援事業所 一般企業への就職を希望する障害者を対象に、職業訓練から就職活動、職場定着まで一貫した支援を行う 市区町村が指定する社会福祉法人、NPO法人、民間企業など
障害者就業・生活支援センター(ナカポツ) 障害者の身近な地域において、障害者が自立して生活できるように就労および日常生活を支援する 独立法人高齢者・障害者・求職者雇用支援機構

どの機関も役割が似ているので混同してしまいがちですが、障害者の「就労」と「日常生活」について各機関が連携し、ナカポツセンターがその拠点となって支援しています。

イメージとしては、ハローワークや地域障害者職業センター、就労移行支援事業所が就労までの支援とアフターフォローを行い、就労後の一定期間が過ぎた後はナカポツセンターが日常生活までを含めた総合的な支援を行うという構図です。

ナカポツセンターの主な支援や相談内容

ナカポツセンターでは、具体的に次のような支援を行っています。

〈就労支援〉
・職業準備訓練や職場実習の斡旋など就職に向けた準備の支援
・ハローワークとの連携による就職活動を開始した後の支援
・企業に対して障害者の特性を踏まえた雇用管理に関する助言
・その他、関係機関との連携
〈生活支援〉
・健康管理、金銭管理、生活習慣など、日常生活における自己管理の助言
・住居、年金、余暇の活動など、地域生活や生活設計に関する助言

ナカポツセンターは、正式名称の通り「障害者の雇用から生活面までの全般的な支援を行う機関」です。利用するにはまずナカポツセンターへの相談と必要な支援を受けるための登録から始まります(次項で詳述)。

では、実際にどんな相談がされているのか、参考までによくある相談内容の一部を紹介します。

障害のある方からの相談
・就職したいが、何をどうしたらいいか分からない
・自分に合った職種が何かわからない
・健康や体力、対人関係での自信がない
・就職の仕方や何を準備すればいいか聞きたい
・就職しても職場になじめなくてすぐに辞めてしまいそう
・長く勤められるように仕事の練習をしたい
障害者雇用を検討する企業からの相談
・障害者雇用枠で雇用したいが取り組み方が分からない 
・障害者にどんな仕事を任せればいいか分からない
・雇用してもすぐに辞めてしまうのではないか
・障害者の就労をどう管理すればいいか分からない
・ジョブコーチやトライアル雇用など支援制度について知りたい
・障害者雇用を拡大したいので職場理解を深めたいが、その方法が分からない

以上の他にも数多くの相談事項があります。ナカポツセンターでは障害者と企業の間に立ってきめ細やかな支援を行っています。

ナカポツセンターの利用方法と流れ

次に、障害のある方がナカポツセンターを利用する際の手順や支援内容について見ていきましょう。

ただし、支援内容については障害者本人の生活状況や症状などによって決定され、利用手順についても状況によって前後する場合があるため、これはあくまでも一例であることをお断りしておきます。

1. 地域の障害者就労・生活支援センターへ電話予約などをして相談と登録を行う
障害の状況や既往歴、過去の職歴など、就職活動をするのに必要な情報を伝え、就職に向けた相談と支援を受けるための登録を行います。ナカポツセンターの利用料は、障害者も雇用する企業も基本的に無料となっています。
2. 紹介される施設にて職業訓練や就職準備を行う
就労移行支援事業所などで職業訓練を行います。就職に向けて履歴書の書き方や面接の仕方なども指導してもらえます。
3. 職場体験実習を行う
職業訓練の中期から後期になると職場実習を行い、実際の職場で社員と働くことで就業態度などを身につけます。
4. 就職活動の開始
ハローワークなどと連携して、本人に適した職場を探して求職活動を行います。面接にはナカポツセンターの職員が同席することもあります。
5. 就業開始・定着支援
無事に就職が決まった場合、そこがゴールではなくまだ支援は続きます。ナカポツセンターの職員が職場訪問したり本人の家庭訪問をしたりしながら、継続就労できるよう支援していきます。必要に応じてジョブコーチ(職場適応援助者)の活用も検討・提案することもあります。

就労移行支援事業所は職業訓練から就職後の定着支援まで一貫して行うのが特徴ですが、定着支援の期間は原則6か月間です。それに対し、ナカポツセンターは期間の定めやその他の制限といったものがありません。

そのため、障害者も企業側も職場でトラブルが発生したときなどにいつでもナカポツセンターに相談できるので、すみやかに解決を図ることができます。

障害者は離職率が高いといわれますが、こうしたナカポツセンターの親身なアフターフォローによって長期就労を実現している障害者が増えています。

ナカポツセンターを活用した雇用事例

鹿児島県を中心にホームセンターやスーパーを展開する「株式会社ニシムタ」という会社では、1998年から障害者雇用を開始し、2018年の時点で正社員とアルバイトを含め、80名以上の障害者雇用を行っています。

そんな株式会社ニシムタで働くAさんが、ナカポツセンターによる支援を受けて就労している事例を紹介します。

コミュニケーション力が弱いAさんのケース

知的障害のあるAさんは、職場実習やジョブコーチ支援を経て株式会社ニシムタで働いていたが、就職後1年が過ぎたころから欠勤や早退が目立つように。そのため、株式会社ニシムタと家族がナカポツセンターへ相談し、以下の取り組みを行うことになった。

Aさんと直属の上司との面談にて状況確認と今後の相談をしたところ、Aさんには働く意思があることから、配属されていた部署の責任者を中心としてサポート体制を整えることからスタート。Aさんは言葉で伝えることが苦手なため、本人が今後について考える期間が必要と判断し、まず2週間の休暇を取らせた。

本人と家族、ナカポツセンターによる就労を支えるための会議を行い、「特定の従業員から怒られる」「他の部署で働きたい」「この会社では働き続けたい」などのニーズ把握と意見交換などを行った。

何度か同様の会議を開き、本人の意思や希望が変わらないことから、それを基にした継続雇用プランを株式会社ニシムタで検討した。

上記までの経緯から、他の部署での体験実習やジョブコーチ支援を3か月間行った。

本人の希望を聞き出せたことはもちろん、会社とナカポツセンターが連携して考える時間を与えたり、話し合いの場を設けるなどのサポートを行ったことにより、継続雇用が実現された。

それぞれの取り組みや支援が功を奏し、本人の仕事に熱心に取り組む姿勢や会社側の評価も高いこともあり、体験実習後は配置転換によってさらに継続して勤務しているとのことです。

実は以前からAさんにナカポツセンターの支援は行われていましたが、この事例のポイントは最初に家族や会社がナカポツセンターへ相談したという点です。

この相談がなければ、コミュニケーション力の弱いAさんはそのまま離職していた確率が高いので、ナカポツセンターを上手に活用した好事例と言えるでしょう。

まとめ

障害者就業・生活支援センターを「ナカポツ」と言うことに対し「分かりづらい」という声もあります。

確かに福祉業界に携わる人以外にはあまり知られていない用語ですし、そもそもナカポツというのは約物の「・」のことを指しますので、障害者就業・生活支援センターをナカポツと呼ぶことは、ある意味では障害者福祉の場において適した用語ではないかもしれません。

とはいえ、習慣としてナカポツという言葉が使われることは少なくありませんので、ナカポツという言葉はあくまで用語として覚えておき、障害者の方も障害者を雇用する企業側も、いざというときに頼れる障害者就業・生活支援センターという機関があるということを、この機会に知っていただければ幸いです。

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