法定雇用率が達成しやすくなる「障害者のみなし雇用制度」とは?

法定雇用率が達成しやすくなる「障害者のみなし雇用制度」とは?

昨今、障害者のテレワークという考え方を深化させた「みなし雇用制度」の議論が白熱化しています。

一昔前と比べて障害者雇用は格段に進んできていますが、障害者雇用に関わる各制度内容が企業の足かせになっている部分があるのも事実。

同時に、本当の意味での障害者雇用や障害者の社会進出を妨げているとも言われています。

そこでテレワークを活用した障害者のみなし雇用制度が注目されているのです。

しかし、みなし雇用制度は活用すべきとの声が多い反面、未だ導入には至っていません。

そこでこの記事では「みなし雇用制度」の概要とメリット・デメリット、導入されていない理由について解説します。

障害者雇用を外注できる「みなし雇用制度」とは?

障害者雇用における「みなし雇用制度」とは、障害者の在宅就業を支援する福祉団体などを通じて企業が業務を発注した場合、一定量の発注を「雇用」「就労」とみなす制度です。

現在はまだ正式な制度として導入されていませんが、障害者雇用の現場ではかねてから導入が必要だとの声が上がっていました。

理由は、みなし雇用制度には以下のような多くのメリットあるためです。

障害者にとってのメリット
・仕事が少ない地方在住の障害者でも仕事を受注しやすい
・通勤時の疲労により業務に支障をきたすことがなくなる
・仕事の選択肢が広がる
・体調が悪化しても在宅のためすぐに休憩できる
企業にとってのメリット
・法定雇用率を達成しやすくなる(納付金の支払いがなくなる)
・在宅就業障害者支援制度による特例調整金や報奨金が支給される
・施設や設備改修、特別な支援制度の創設などを行わずに障害者雇用を進められる
・企業のテレワーク推進の一翼を担う可能性がある

その他にも、給与が低いと言われる障害者や交通費手当を支給する会社の双方にとって、通勤にかかる費用を削減できるのも一つのメリットと言えるでしょう。

障害者雇用納付金制度の弊害とみなし雇用制度

メリットが多いとされる障害者のみなし雇用による就業ですが、実はみなし雇用の活用が叫ばれるのは「障害者雇用納付金制度」における根深い問題も背景にあります。

障害者雇用促進法による法定雇用率を達成できていない企業は、ペナルティとも言える納付金を納めなければなりません。

逆に法定雇用率を達成した企業には、達成できなかった企業が納めた納付金の中から助成金が支給されます。

つまり、障害者雇用納付金制度は企業間のペナルティと報奨金という仕組みにより、自発的な障害者雇用を促す役割があるのです。

【出典】障害者雇用納付制度 | 厚生労働省

しかし障害者雇用納付金には、制度自体の欠陥とも言える致命的な問題があります。

現行制度では人件費を捻出しやすい大企業が助成金目当てや数合わせのために「とりあえず障害者を雇用」しているケースがあり、その反面、資金力のない中小企業に障害者雇用納付金や社名公表などの重い負担がしわ寄せされているのです。

つまり、障害者雇用納付金制度は自発的な障害者雇用の促進どころか、資金力のない会社から大企業にお金が間接的に流れる仕組みになっているのです。

結果、中小企業レベルでの障害者雇用が遅れる要因にもなっていると言われます。

この障害者雇用納付金制度の矛盾を無くすために障害者のみなし雇用制度を導入し、中小企業でも障害者雇用率を達成しやすくすることが重要なのです。

みなし雇用を超短時間労働で活用するソフトバンクの取り組み

【出典】ショートタイムワークアライアンス | ソフトバンク

メリットばかりのように思える障害者のみなし雇用制度ですが、実はデメリットが全くないわけではありません。

障害者のみなし雇用制度は、「障害者雇用を逆に抑制してしまうのではないか」とも言われているのです。

事実、国会ではこんな議論が行われています。

足立信也議員
【Q】
・みなし雇用制度で障害者雇用の算定にカウントできる仕組みを取り入れたらどうか
・フランスやドイツは既にそういった制度を導入している
厚生労働審議官 土屋喜久氏
【A】
・事業主が雇用の場を用意するという観点で考えると、みなし雇用は事業主の障害者雇用の取組を抑制する
・みなし雇用は「福祉視点での就労から積極的な雇用促進へ」という目的からずれてしまう

【参考】第197回国会 参議院 厚生労働委員会

豊富な資金力で数合わせをした大企業だけが法定雇用率を達成し、達成できなかった中小企業には重い負担が強いられている現状はお伝えした通りです。

更にみなし雇用制度を導入すると、事業規模が大きく業務数も多い大企業にとって更に都合の良い数合わせという使われ方をしてしまう可能性もあるのです。

しかし、みなし雇用を別の観点から実践している企業があります。それは携帯電話会社として誰もが知る「ソフトバンク」です。

ソフトバンクでは、「外注」「発注」「在宅」という観点ではなく、「ショートタイムワーク制度」という超短時間労働での活用方法を取り入れています。

ショートタイムワーク制度とは、週20時間未満の労働時間で就労する複数人の障害者を雇用し、障害者が実際に就業した時間を合算して1人分とするという考え方です。

ソフトバンクのショートタイムワーク制度には賛同する企業も多く、ソフトバンクが立ち上げた「ショートタイムワークアライアンス」には既に130もの法人や団体が参加しています。

数多くの問題を指摘されるみなし雇用制度の現状を考えると、ソフトバンクのショートタイムワーク制度はみなし雇用制度として1つの有効な手段と言えるでしょう。

【出典】ショートタイムワーク制度 | ソフトバンク

障害者雇用促進法にとらわれない真の障害者雇用とは?

障害者雇用促進法や社会全体の障害者雇用への認知度の高まりは、障害者の雇用拡大に大きく寄与しました。

しかし、各制度が「数字」「成績」「ノルマ」といった考え方にとらわれすぎている印象があるのは否めません。

事実、日本財団主催の「就労支援フォーラムNIPPON2019」では、みなし雇用や重度障害者のダブルカウント(1人を雇用しても2人とみなされる)という考え方に、「バカにするな!」という声もあったと報告されています。

みなし雇用は障害者にとってメリットが多い制度ですが、大企業だけの都合の良い制度にしないためにも、「一定規模以下の中小企業のみにする」「企業の財務状況に応じて適切に適用できるようにする」などの措置を検討する必要があるでしょう。

本来の障害者雇用は、障害者も分け隔てなく社会で活躍できる「インクルーシブ」や「ノーマライゼーション」の考え方が前提であるべきです。

みなし雇用制度は、仮に障害者雇用率を達成できても障害者を社会から隔離することにもなりかねません。

そう考えると、障害者のみなし雇用を数字のみで考えて議論を続けているうちは、少々論点がズレていると言えるのではないでしょうか。

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