【うつ病】職場復帰支援プログラムの目的・トレーニング内容・復職事例を紹介

【うつ病】職場復帰支援プログラムの目的・トレーニング内容・復職事例を紹介


職場復帰支援プログラムは、長期休職している人が仕事に戻れるようにスキルアップすることを目的としています。技術的な面だけでなく、二度とうつ病にならないための各種のトレーニングもプログラムに組まれています。

ここでは、医療機関や就労支援機関で実施されている職場復帰支援プログラムを取り上げ、具体的な内容や利用料金、復職で失敗しないためのリハビリ出勤などについて詳しく紹介していきます。

職場復帰支援プログラムの目的はうつ病の再発防止

職場復帰支援プログラムとは、うつ病などの精神疾患にかかって長期休職を余儀なくされていた人が、不安なく職場に戻って仕事を継続できるようになるためのリハビリテーションプログラムのことです。復職を意味する「return to work」を略して「リワークプログラム」ともいいます。

職場復帰支援の目的は、単に復職することではありません。うつ病は再発しやすい病気で、初発の治療後の再発率は60%もあり、2回目の治療後の再発率は70%と高くなり、その多くは慢性化させています。そうなると抗うつ薬も効かなくなり、治すのが難しくなってしまうため、再発防止を最終目的としています。

職場復帰支援プログラムが実施されている機関

職場復帰支援プログラムが実施されている主な機関と特徴をあげてみましょう。

医療機関

病院の精神科や心療内科、メンタルクリニックで行われる復職支援専門のデイケアです。医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、カウンセラーなどが携わり、再発して休職を繰り返すことのないよう病状の回復と安定を目指します。メンタルクリニックの中には、栄養摂取にも重点を置き、昼食を提供しているところもあります。なお、職場復帰支援プログラムを実施している医療機関は限られているので、事前に確認する必要があります。

●利用対象者…復職の意欲はあるが自信が持てない人。復職後の再発を防ぎたいと思う人など。病院によっては薬物依存やアルコール依存、不安障害のある人は対象外とするところもあります。
●利用期間…3~7か月。利用者の状態によって異なります。
●利用料金…各種の健康保険や自立支援医療制度が適用されるため、1割自己負担で1日700円~1,000円です。

地域障害者職業センター

都道府県に設置されている就労支援機関で、運営母体は「独立行政法人 高齢・障害・求職者支援機構」。職業カウンセラーが、本人と雇用主、主治医の3者の合意のもとにリワークプログラムを実施します。本人に対しては、作業やカウンセリングを通して生活リズムを整えるとともに基礎体力を高め、ストレス管理についての知識や対処法を習得できるようサポートします。雇用主には本人が職場に定着できるように環境整備について助言や指導法の提案などを行ないます。

●利用対象者…雇用保険適用事業所の従業員(雇用保険の加入者)のみ。国・地方公共団体、特定独立行政法人に勤務する人は対象外とされています。
●利用期間…準備期間を入れて4か月間が標準です。
●利用料金…無料。

■地域障害者職業センター一覧
https://www.jeed.or.jp/location/chiiki/index.html

就労移行支援事業所

社会福祉法人やNPO法人、民間企業が運営する通所型の福祉施設で、全国約3,400か所に就労移行支援事業所があります。一般企業への就職を希望する障害者に対して、職業訓練から就職活動、就職後の定着まで一貫して支援するのが特徴です。うつ病などで休職していてすぐ職場復帰するのは難しいという人も多く利用しています。就労移行支援事業所は、市区町村の福祉課に問い合わせると最寄りの事業所を紹介してもらえます。

●利用対象者……一般企業への就労を希望する18歳~65歳未満の身体障害、知的障害、精神障害、難病のある人。
●利用期間…2年が標準ですが、早い人では6か月程度で就職・復職するケースもあります。
●利用料金…厚生労働省によって定められており、9割を市区町村が負担し、残り1割を自己負担することになっていますが、負担金額は年収によるため、ほとんどの人が無料で利用しています。

職場復帰支援プログラムの主な内容

職場復帰支援プログラムは、会社に勤務しているときと同様にクリニックや施設に週5日、決まった時間に通い、曜日ごとに編成されたプログラムに取り組みます。プログラムの内容は実施機関によってさまざまですが、次の5つに大別されます。

1 個人プログラム(オフィスワーク)
復職した際に就くことが予定されている業務に似た作業を一人で行い、集中の持続力や作業の時間配分、業務遂行能力などの回復と向上を目指します。たとえば、事務職であれば数字や文字、文章を扱う作業を中心としたプログラムとなります。
2 特定の心理プログラム
ソーシャルスキルトレーニング(SST:社会生活を送るうえで必要なスキルを習得するための訓練)やアサーショントレーニング(上手に自己主張するための訓練)、認知行動療法(ネガティブに物事をとらえる思考パターンを修整する心理療法)などを取り入れて、主にコミュニケーション力の向上を図ります。
3 教育プログラム
自分が休職に至った理由を振り返り、生活リズムや服薬の重要性、復職するまでの過程などを理解することで、同じ状況になったときも心身を自己管理できる能力を身につけていきます。講義形式で進められますが、ディスカッションの時間も設けられています。教育プログラムでは、同じ悩みを持つ人同士が交流することで、自分ではわからなかった精神の不調への気づきを促すことを目的としています。
4 集団プログラム
うつ病の発症要因が職場の対人関係だったというケースが多いことから、参加者に上司役、同僚役、部下役を割り振り、ストレスになる場面を再現して対応の仕方を訓練します。不適切な対応をした場合は支援スタッフが指摘し、フィードバックを重ねながら好ましくない対人パターンを修整していきます。うつ病は社会適応力が低下した状態ですが、こうした訓練によって新たな社会適応力を獲得できるようになります。
5 その他のプログラム
以上のプログラムのほかに、軽い体操を取り入れた基礎体力向上のプログラムや、作業療法、芸術療法、筋弛緩法などのリラクゼーション、個人面談などのプログラムも組まれています。

職場復帰をするときはリハビリ出勤から

職場復帰支援プログラムの利用期間が過ぎたからといってすぐ職場復帰というわけにはいきません。職場環境に問題があってうつ病になった場合は、以前と同じ環境に戻ったのでは再発は免れません。厚生労働省では、正式に職場復帰する前に試験的に3か月間ほど出勤する「試し出勤制度」を社内制度として設けることを推奨しています。

一般的にはリハビリ出勤といわれていますが、元の職場に出勤して、当初は1日4時間程度の時短勤務とし、仕事らしきことはせずに身の回りの整理や読書などで時間を過ごし、職場の雰囲気に慣れることを最優先します。リハビリ期間中に特に問題がなければ予定通り正式復職となります。もし疲労感が強いようであれば復職を見送り、主治医と上司に相談しながら改めて復職のタイミングを計るようにします。

長期休業した社員の職場復帰支援の事例

2年近い休職ののちリハビリ出勤を経て正式復職へ(30代・男性・営業職)

メーカーに勤務するAさんは業務が多忙になってきた折、顧客との連絡ミスが重なり、その対策などに追われ、夜眠れなくなってきた。また、いつも漠然とした不安を感じるようになり、いつまでたっても改善しないため、9か月後に精神科を受診したところ、抑うつ状態との診断で休業となった、その後しばらく経過は思わしくなかったが、服薬、カウンセリングなどによって次第に回復してきた。休業10か月後に主治医に復職を申し出たが、もう少し回復してからと復職の時期が延びた経緯がある。その後4か月たってから主治医より「復職に備えては」といわれるようになった。このころにはよく眠れるようになって、気持ちも楽になり、投薬も減量された。主治医との相談の結果、8か月後に復職診断書が出され、産業医との復職面談となった。
(中略)
上司が設定した復職面談日に、産業医が本人にリハビリ出勤について説明したところ、本人も復職に対する不安を少しでも拭いたいと希望し、下表のような計画を作成し実施することとした。
当初から5日間連続のリハビリ出勤は疲労を招くことになると判断し、木曜日から開始し、当初2日間は通常の業務時間より短縮したものとした。月曜日はフルタイムとし、翌日に疲労感なく出勤ができることを確認したあと、正式復職直前は休み、その翌日から復職とした。

リハビリ出勤中は、眠気もなく集中力も維持することができ、同僚とのコミュニケーションにも問題がなかったAさんはリハビリ出勤を終了し、予定通りに正式復職となりました。復職後は時間外労働や社用車の運転などは制限し、仕事の量・質とも軽減して少しずつ心身を慣らしていくことにしました。復職後3か月目頃からは1日1時間程度の残業もできるほど順調に経過しています。

【引用】厚生労働省 中央労働災害防止協会「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

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