「トライアル雇用奨励金」と「特定求職者雇用開発助成金」の概要・申請方法

「トライアル雇用奨励金」と「特定求職者雇用開発助成金」の概要・申請方法


企業や採用担当者にとって雇用は重要な要素。そんな人事採用のコスト削減をできる制度が我が国には存在します。

特に「トライアル雇用奨励金」と「特定求職者雇用開発助成金」は、障害を抱えている方を採用することで助成金を受け取れる貴重な制度です。

今回は、雇用する企業も雇用される障害者もメリットを最大限活かせるように、各制度がどういったものか、申請方法も含めて解説します。

トライアル雇用奨励金とは?支給内容と申請方法

トライアル雇用は、厚生労働省が定める一定の要件を満たすと奨励金が受け取れる制度です。

トライアル雇用は原則3か月間の雇用期間が設定されますが、期間満了後は企業に採用義務はなく、通常の”試用期間”という雇用方法と比べると解雇までのプロセスが簡単なのが特徴です。

また、雇用者と企業の契約には、厚生労働省やハローワークが介入するという点も特徴の1つです。

では、実際の制度内容として「障害トライアルコース」の雇用対象者や助成金の支給要件、申請の流れを見てみましょう。

障害トライアルコース雇用対象者
  • 就労経験のない職業に就くことを希望している
  • 過去2年以内に、2回以上の離職・転職をしている
  • 離職している期間が6か月を超えている
  • 重度の身体・知的・精神の障害を抱えている
支給額と支給期間
  • 対象者1人当たり、月額最大4万円、最長3か月間の受給
  • 初めて精神障害者を雇用する場合、月額最大8万円、助成金受給最長期間は3か月間
  • 週20時間以下のトライアル雇用は、月額最大2万円、受給最長期間は12か月

※支給額は「就業予定日数に対する実働日数の割合」で計算されます。

【障害トライアルコースの申請方法】
  1. ハローワークに「トライアル雇用求人」を出す
  2. 求職者と面接してマッチングすれば採用する
    ※対象者の雇用保険加入手続きが必須
  3. 紹介を受けた機関へ「トライアル雇用実施計画書」を提出
    ※トライアル雇用開始から2週間以内
  4. 「トライアル雇用結果報告書」と「トライアル雇用奨励金支給申請書」を労働局に提出して受給申請
    ※トライアル雇用期間終了の翌日から2か月以内

助成金が支給されるのはトライアル雇用期間が終了後です。支給要件が満たされているか審査された上で、算出された支給額が一括で振り込まれます。

【参考】厚生労働省「障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース」

特定求職者雇用開発助成金とは?支給内容と申請方法

もう1つ「特定求職者雇用開発助成金」という制度もあります。

特定求職者雇用開発助成金には様々なコースが設けられており、障害者関連の助成金は主に3つです。

【1】特定就職困難者コース

障害者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により、雇用保険の一般被保険者として継続して雇用する事業主は助成金が受け取れます。

助成金の内容は以下の通りです。

対象労働者 支給額 対象期間 支給方法
短時間労働者以外 身体・知的障害者 120万円
(50万円)
2年
(1年)
30万円×4期
(25万円×2期)
重度障害者等 240万円
(100万円)
3年
(1年6か月)
40万円×6期
(33万円×3期)
短時間労働者 身体・知的・精神障害者
重度障害者等
80万円
(30万円)
2年
(1年)
20万円×4期
(15万円×2期)

※カッコは中小企業事業主以外が対象

【2】発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース

ハローワーク等の紹介で発達障害者や難治性疾患患者を継続雇用する事業主が対象の助成金です。

事業主は雇用した障害者に対する配慮事項等の報告義務があり、雇用から約半年後にはハローワーク職員等が職場訪問も行います。

助成金の概要や助成金の額は「特定就職困難者コース」とほぼ同じです。

【3】障害者初回雇用コース

障害者雇用の経験のない中小企業が障害者を初めて雇用し、それにより法定雇用率を達成したら助成金が受け取れる制度です。

助成金の額は一律「120万円」と定められています。

※詳しくは厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」を確認しつつ、管轄のハローワークや各都道府県労働局に相談されることをおすすめします。

「特定就職困難者コース」の支給要件

上記の助成金を受け取るための支給要件はそれぞれ細かく定められていますので、一般企業として重要な部分を抜粋してご紹介します。

  • 雇用保険が適用される事業主であること
  • 管轄労働局の実地調査や助成金の支給決定に関わる審査に協力する事業主であること
  • 対象労働者をハローワークや地方運輸局など特定地方公共団体、職業紹介事業者の紹介で雇用すること
  • 対象労働者の継続雇用が確実であると認められる事業主であること
  • 対象労働者を雇用する前後6か月間に事業主都合で従業員の解雇をしていないこと
  • 雇用保険の一般被保険者として雇い入れる事業主であること
  • 雇用保険における特定受給資格者が、対象労働者を雇用する日に被保険者数の6%を超えていないこと
  • 対象労働者より前に雇用した特定就労困難者コースの対象となる人が、離職率50%を超えていないこと

※「継続して雇用することが確実である」の要件は「対象労働者の年齢が65歳以上に達するまで継続して雇用し、かつ当該雇用期間が継続して2年以上である」ことを指します。

【参考】厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)のご案内」

「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」の支給要件

「特定就職困難者コース」とほぼ同じ内容です。

「障害者初回雇用コース」の支給要件

  • 助成金の申請時に、常用雇用の従業員が50人以上300人未満の中小企業であること
  • 助成金受給対象である身体障害者または精神障害者を初めて雇用すること
  • 1人目の受給対象者の雇用日から3か月の間に、雇用した受給対象従業員数が法定雇用率を超えること
  • 1人目の受給対象従業員の雇用日までの過去3年間、受給対象となる障害者を雇用していないこと

【参考】厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(障害者初回雇用コース)」

トライアル雇用奨励金・特定求職者雇用開発助成金の注意点

どちらの制度も雇用主の都合により労働者を解雇した場合、支給を受けることができなくなるため注意が必要です。

そもそも助成金はすぐに貰えませんので、助成金を得る前に資金繰りが悪くならないよう計画性も必要と言えるでしょう。

トライアル雇用奨励金と特定求職者雇用開発助成金には共通して「支給対象から外れる要件」があります。

例えば、暴力団とつながりがあったり、過去に不正が発覚していたりするなどです。以下に一般企業として注意しておきたい点をご紹介します。

【助成金の対象から外れる事業者】
  • 機関の紹介以前に雇用の予約があった対象の労働者を雇い入れる場合
  • 失業などの状態にない者を雇い入れる場合
  • 助成金の支給対象期間の支給決定までの間に、対象労働者を事業主の都合で離職させた場合
  • 雇い入れ日の前日から過去3年間に、雇い入れる事業所と雇用に関わる関係があった場合
  • 対象労働者が、雇入れる事業所の代表者などの3親等以内の親族である場合
  • 求人の時と異なる条件で雇い入れたことで対象労働者から不利益が生じていると申し出があった場合
  • 性風俗関連や接待を伴う飲食等営業などを営業しており、接待業務に従事する者として雇用する場合
  • など

「トライアル雇用」で雇用された障害者と企業の事例

では最後に今回ご紹介した助成金制度のうち、「トライアル雇用」で雇用された障害者と企業の実例をご紹介します。

実際に障害者雇用を検討する企業にとってトライアル雇用の流れを把握するのに参考になる事例です。

東京都文京区にある「勝美印刷株式会社」では障害者雇用納付金制度の改正に伴い、障害者雇用を検討していました。

まず行ったのは東京障害者職業センターへの訪問と相談。ジョブコーチや職業準備支援、障害特性などのレクチャーを受けつつ障害者雇用への理解を深めることから始めました。

その後、職場体験実習の申し込みがあり2週間実施。業務遂行や職場適応能力に問題ないとの判断で3か月間のトライアル雇用へ移行します。

その後、障害者雇用の支援員によるサポートや障害者の方の仕事ぶりにも自主性が認められたため、最終的に本採用に至ります。

人事担当者も採用方法や助成金について何もわからない状態でのスタートだったと語っていますが、最終的には円満な雇用関係に繋がった良い事例です。

【参考】都内・身近な企業の障害者雇用取組事例集

まとめ

トライアル雇用の制度は、求職者と企業との雇用のミスマッチ等のトラブルを減らすことができる制度とも言えるでしょう。

期間を設けて雇用することで、雇用側は「労働者が会社の仕事に適しているか」、労働者は「仕事の内容」を知ることができるからです。

特定求職者雇用開発助成金もトライアル雇用奨励金と同様に、企業の雇用負担を減らせる制度です。

どちらの制度も計画的に上手く活用すれば、雇用側の負担を減らしつつ障害者雇用の発展につなげることができます。

障害者雇用を検討される企業にとっても非常にメリットの大きい制度と言えるのではないでしょうか。

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