うつ病で仕事をやめた場合、転職時の面接で病気の事を話すべき?

うつ病で仕事をやめた場合、転職時の面接で病気の事を話すべき?


転職において、”障害がある”という事実は採用に影響するため誰しも隠しておきたいことでしょう。そもそもデリケートな情報ですから、積極的に話したいと思う人も少ないはずです。

しかしながら、もしうつ病で仕事をやめて転職時の面接で「病歴は?」と聞かれた時、うつ病の事実を告げないのは法的に問題はないのでしょうか?

一概に判断が難しい問題ですが、うつ病で仕事を辞めた後、転職時の面接で病気について説明すべきか、法令や判例などを挙げつつ考えていきます。

うつ病での転職時における障害の告知義務

以前勤めていた会社をうつ病で退職し、転職時における面接でうつ病という障害を告知する義務があるかどうか。これは非常に難しい問題です。

面接時における既往歴の告知に関して法的義務はないものの、状況次第では裁判沙汰になるケースもあります。病歴を隠して就職した結果、トラブルになった実際の事例を見てみましょう。

ヘルニアを隠して入社し、解雇された事例

まず1つ目の事例のご紹介です。

腰のヘルニアの治療を受けたことがあるAさんが、その既往歴について隠したまま電気設備会社に入社しました。

その後、仕事中に腰を痛める事故の発生と業務上の命令に従わなかったことを理由に解雇されます。

解雇されたAさんは法的措置に出ました。

これに対し裁判所は、「8か月間において普通に働けていたことを考えると、ヘルニアの事実を隠していたことは解雇事由に当たらない」としながらも、「度重なる命令違反などもあったため、解雇自体は有効である」と認められています。

【出典】全基連 判例検索

視覚障害を隠して入社し、解雇された事例

次に2つ目の事例のご紹介です。

視力が右目1.2、左目0.03で矯正もできない視力障害を持った人が、視覚障害を隠したまま入社しました。

しかし、視覚障害があることが発覚し、さらに重機を操作する職種だったため、「病歴詐称」「業務不適格」などを理由に解雇されます。

このケースに対し、裁判所は、「採用面接時の運転技術に問題ないとの判断で雇用された事、大型特殊免許の更新がされていた事を勘案し、業務に支障が出るとは言えない」と判断しました。

また、大型特殊免許は大型自動車免許より高度な免許であるため、視覚障害があると危険という会社側の主張も「免許の合格基準などが異なる」との理由で認められませんでした。

その結果、解雇後の賃金や賞与の請求が認められて会社に対して賃金等の支払いが命じられました。

どちらも最終的に既往歴や障害を理由に解雇されたことは「不当解雇にあたる」と判断されています。

ただし、注意しなければならないのは、「それまで普通に働けていた」という事実が前提になっているということです。

もし、うつ病などの障害を隠して入社し、すぐ疾病によって業務に支障が出たのであれば、上記のような判断にはならない可能性も十分に考えられるため、病歴を隠して入社しても問題はないと考えるのは早計と言えるでしょう。

【出典】全基連 判例検索

雇用者側の面接時における障害の確認

判例を基に事実を整理すると、以下のようになります。

  • うつ病である(だった)事を面接時に話す必要はない
  • 病歴詐称にあたるかどうかは就業後の状況による

これらが正しいとするなら、雇用する会社側が面接時に既往歴や障害の有無を聞けばよいのでは?という話にもなりそうですが、それには少し注意が必要です。

まず、個人情報保護法第17条2項には以下のように記載があります。

個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。

【引用】e-Gov 個人情報保護法第17条2項

「要配慮個人情報」とは、国籍や病歴などの情報を指します。

つまり、一般企業が本人の了承なしに国籍や病歴などのデリケートな情報を取得してはならないということです。

ただし、条文にある「個人情報取扱事業者」は5000人以上の個人情報を取り扱う事業者を指しますので、5000人未満の企業であれば、要配慮個人情報の取得が許されるかのようにも思えるでしょう。

しかしながら、職業安定法の第5条4項には以下のような条文があります。

(中略)労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者は、(中略)その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。(中略)

【引用】e-Gov 職業安定法

これは就職面談の際に安易に個人情報を収集してはならないという意味です。

個人情報には当然病歴などの要配慮個人情報も含まれるため、面接で安易に病歴などを聞いてはならないという解釈ができます。

うつ病で病歴の説明が必要なケース

そう考えると、面接は求職者側に有利で企業側は不利かのようにも思えるでしょう。

しかしながら、職業安定法第5条4には「業務の目的の達成に必要な範囲内であれば、個人情報を取得することが可能」との記載があり、さらに同条文には続きがあります。

ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

【引用】e-Gov 職業安定法

ここまでを踏まえ、うつ病である求職者と採用側の事業者の双方の視点でまとめてみましょう。

  • 求職者はうつ病でもその説明義務はない
  • 病歴を隠しても業務に差し障りない範囲なら問題ない
  • 事業者はうつ病等の病歴を含めて個人情報の取得は許されないが、業務に必要な範囲内なら本人に病歴を聞くことはできる

職業安定法第5条4の「正当性」に明確な定義はありませんが、最初にご紹介した視力障害者が不当解雇だと認められたのは、片目だけの視力が弱い事やそれまで業務が問題なく行えていた事が主な理由です。

もし、両目共に視力が弱く、明らかに重機を動かすことが危険なのに病歴を詐称していたならば、その事を理由に解雇されたとしても文句は言えないでしょう。 

上記までのケースを勘案すると、うつ病を理由に頻繁に会社を休むとか遅刻が多くなる可能性があるなら、面接時にうつ病であることを説明しなければならないと考えられます。

うつ病の告知は自由だが、注意も必要

いくら法律や判例で「業務に支障が出るなら面接時にうつ病と告白しなければならない」とされていたとしても、うつ病を発症した本人からすれば「転職に不利だからできれば隠しておきたい」のが本音ではないでしょうか。

確かにうつ病であることを隠して入社し、その後も業務に支障なく仕事を続けられるなら、病歴を隠しておくのもあながち間違いとは言えないかも知れません。

ただ、1つ大事な注意点があります。それは、労働安全衛生規則第43条にある以下の規定です。

事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。

ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。

【引用】e-Gov 労働安全衛生規則

本条文の「次の項目」ですが、少々難解な用語もあるため、要約してご紹介すると以下のようになります。

  • 既往歴やこれまでの仕事について
  • 自覚症状の有無や医師の問診等による症状の有無
  • 身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
  • 胸部エックス線検査
  • 血圧測定
  • 血液検査(貧血の可能性、肝機能、コレステロールなどの血中脂質、血糖値など)
  • 尿検査
  • 心電図検査

上記規定の通り、面接した人を雇い入れる際に事業主は健康診断を行わなければならない義務があり、雇用後も定期的な健康診断が義務付けられていますので、いくらうつ病を隠しても健康診断でバレてしまう可能性があるのです。

条文では、前職で受けた健康診断結果の提出でも良いとしていますが、もし面接を受けた会社から健康診断の結果表などを求められた場合、その結果表にうつ病とでも書かれていたら嘘が発覚し、不採用になるリスクもあるでしょう。

上記の事から、以下のことが言えます。

  • うつ病を隠しても健康診断でバレたら転職は失敗
  • 健康診断でバレなくても業務に支障が出たら解雇だけでは済まない可能性もある

こういったリスクも踏まえると、自身のうつ病が仕事にどのくらい影響するか、医者や専門家と相談しつつ転職に臨むのが最善の方法と言えるでしょう。

まとめ

求職者が面接に受かるためうつ病を隠そうとする反面、採用する企業側は「どんな人物か、会社に適応できるか、戦力になるのか」など、疾病や障害に関しても包み隠さず話して欲しいと考えています。

求職者と企業がお互いに理解し配慮することができなければ、このジレンマを完全に排除するのは難しいでしょう。

うつ病になって転職に不安がある場合、うつ病を隠すか隠さないか一人で悩まず、医師や家族、就労支援事業者などに相談してみることをおすすめします。

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